地方創生Web3研究所、最初の記事は新潟県長岡市、旧山古志村の *1 Nishikigoi NFT について取り上げます。NFTを中心としたWeb3関連の技術や考え方が地方地域にどのような可能性や活用の方法があるのかを、全国各地の取り組みを参考に取り上げていきます。
*1 NFT =ブロックチェーン技術で裏付けされた、価値の高いデジタルデータです。実質的に改ざん、複製不可能な特性があることで、データの唯一無二であることが証明され希少価値がつくため、近年人気が出ています。
はじめに
2021年12月に人口800人、高齢化率55%以上の小さな村から存続をかけた挑戦が開始しました。 世界中から人気を集める地域の特産品「錦鯉」をNFTアートに載せ、世界で初めてデジタル住民票をNFTで発行しました。そして、これからの地方地域のあり方を画期的に変革するのではないかと考えられる、*2 山古志DAO が立ち上がりました。
*2 DAO = 「分散型自律組織」と呼ばれる、ブロックチェーン上で世界中の人々が協働して管理・運営される組織。日本ではその前身として、NFTを中心としたコミュニティをDAOと呼ぶことがあります。
オンライン上で、NFT所有者の関係人口と地域住民が関わり町を作っていく「仮想山古志」が誕生したのです。
現在では、NFT保有者の関係人口は1,050人を超え、地域住民の数を関係人口が上回り、地域住民と関係人口によるプロジェクトが発足し始めている山古志村。その取組内容から、web3が地方地域に与える可能性について深掘りしていきます。
取り組みきっかけ
山古志村の地方創生は、2004年に発生した新潟県中越地震をきっかけに始まりました。
地域住民が自らより良い地域の実現するために震災時に発足された「山古志住民会議」があります。そこには、震災をきっかけに山古志村と関わりができ、山古志村を好きになった竹内春華氏がいます。情熱的な関係人口であり、後に山古志DAOの発起人になります。
山古志村は、2,200人以上いた町が約800人ほどまでに減少し、高齢化率は55%と存続の危機となっている状況にあり、隣町の長岡市に合併されました。それでも、山古志村のアイデンティティは山古志にあり、それを存続させていくためにはどうしたらいいかを考える中で、「山古志を疑似体験できる仮想空間を作り、価値観を共有する人と共同体を作って山古志を存続させる」という構想を立てました。そして、竹内氏はエストニアの電子住民票「e-Residency(電子国民プログラム)」からインスピレーションを受け、山古志にいなくても、山古志村の一員であるような証明書としての利用価値をNFTに見出しました。そして、NFTをデジタル住民票として活用することで、保有している世界中の人がデジタル上で山古志村の村民になれる世界(DAO)を開いたことがスタートです。
取組内容
①NFTの発行
竹内氏を中心とした山古志住民会議はNFTのアートとの相性の良さを利用して、山古志村の錦鯉という、地域のアイデンティティの象徴をNFTアートに載せて発行しました。
結果としては、第一弾が1つ0.03ETHで350個、第二弾が1つ0.06ETHで1,150個販売され、現在までに約1,050人のNFT保有者が現れています。*総額取引数は61.9ETHと日本円に換算すると約21,665,000円の売上と、世界から注目される取り組みとなりました。
第一弾のNFTアートのアーティストは、Okazz/おかず氏
第二弾のNFTアートのアーティストは、raf氏
②山古志住民にNFTを無償配布
「山古志村の住民によって維持されてきたこの村を、関係人口だけでプロジェクトを考え進めてもいいのか?」そんな葛藤があったときに、リアルの山古志住民への無償のNFT配布を企画しました。そこで、NFT保有者が投票に参加できるアプリを活用して賛成か否かのアンケートを行ったところ、賛成が100%となり住民へ無償配布を行いました。NFTを保有するためのウォレットMetamaskの開設からサポートを行い、住民を取り逃さないための取り組みも着実に進めています。
③デジタル村民総選挙
最も規模が大きな取り組みとして「山古志デジタル村民 総選挙」が挙げられます。NFTの売上の30%(約3ETH)をデジタル総選挙の予算として開催されました。
このデジタル総選挙では、NFTを持っているデジタル関係人口全員が自分のプランを考え、提案できるようになっていて、最終的に4つのプランを選出するようになっています。
そうして挙げられたプランの中でディスカッションが行われ、投票をする形で選挙が行われました。選ばれたプランには
1位:1.5ETH(当時で30万円相当)
山古志滞在 Vlog
2位:1ETH
世界一NFTを集める村
3位:0.75ETH × 2
メタバース上に山古志村を再現
地域材からNFTを新しく発行
報酬が用意されていることで、プランをデジタル関係人口が考えるインセンティブとなっています。
④Discordを活用したコミュニティの運営
Discordと呼ばれるチャットや音声通話ができるコミュニケーションツールを活用し、全国各地に散在する、関係人口と地域住民が集まれる空間を運営しています。これにより、デジタル総選挙で決まったプロジェクトのディスカッションを行う場としての利用や、山古志のことを知りたいときに連絡を取れる手段としての活用がされています。
また、ここに関係人口が集まることで、地域での祭りなどのイベントがあったときに、イベント発信を行いやすくなったり、人手が足りないときには募集をしたりすることができるなどのメリットがあります。他にも、Nishikigoi NFT保有者限定のトークルームを作成し、より密度の高い会話を行なっています。
まとめ
山古志村の取り組みを調べる中で、地方創生の取り組みにNFTやDAOが融合することには、投機的な側面以外の活用方法の可能性を感じました。
地域の維持が困難な地域の財源獲得は、住民からの税金の徴収と国からの補助金がメインです。通常のふるさと納税やクラウドファンディングなどに取り組むことで副収入源ができますが、これらの取り組みは返礼品の品をもらって終わってしまう一過性のものがほとんどです。それに対して、NFTを使った取り組みでは通貨の制限がなく、グローバルでの関係人口構築の可能性があります。また、デジタル資産として残り続けることで、関係性の可視化や証明書としての利用など、発展が見込まれる可能性を秘めています。
DAOの利用でも、デジタル総選挙のように関係人口が取り組みに参加し、評価されるとインセンティブが与えられるといった、関係人口が活動的になるエコシステムを生み出している点や、直接関われる直接民主制の疑似版を生み出す点など、これからの地域の自治を変革していく期待が持てます。
ただ、こうした地方創生の取り組みでは新しい技術を活用すれば成功するとも限りません。どの成功事例を見ていても山古志村であれば竹内氏のように、リーダーシップを持ち、前に進める推進力を持った人が必ず存在します。
今後も、NFTやDAO、メタバースといったweb3に関連する技術を活用した地方創生の取り組みをリサーチしていきますのでお楽しみにお待ち下さい。また、竹内さんには今回の作成にご協力いただきましてありがとうございました!(担当:中村一稀)
本記事について、引用元を明記する際は許可なく引用して大丈夫です!